カリキュラム
PEDAGOGY.md — 学習科学に基づく教材設計原則(このカリキュラムへの適用)
2026-07-12 に実施した学習科学リサーチ(3系統・一次文献/メタ分析ベース)の統合と、このカリキュラム+HTML学習サイトへの適用マップ。教材に新しい仕掛けを足すときは、まずこのファイルの原則に照らす。
詳細な調査レポート(効果量・出典つき):
- pedagogy/research-techniques.md — 学習技法のエビデンス(検索練習・分散・インターリービング・メタ認知の錯覚)
- pedagogy/research-visual-multimedia.md — 図解・マルチメディア学習(Mayer原則・二重符号化・誘惑的詳細)
- pedagogy/research-memory-structure.md — 記憶定着と教材構造(FSRS・successive relearning・事前テスト・足場外し)
採用した原則 Top10(エビデンス強度順)
| # | 原則 | 根拠(代表値) | このカリキュラムでの実装 |
|---|---|---|---|
| 1 | 検索練習(読み返すより思い出す) | 教室メタ分析 g≈0.50(Yang 2021, 222研究)。フィードバック付きが優位(g=0.537 vs 0.374) | 全モジュールの自己チェック=解答解説つき想起クイズ(90問)。サイトでカード化・横断ドリル |
| 2 | 分散学習+間隔反復 | 分散 d=0.85(Donoghue & Hattie 2021)。間隔をあけた検索練習 g=0.74(Latimier 2021) | サイトに FSRS-6 スケジューラ(ts-fsrs同梱・retention 0.9)+「今日の復習」キュー |
| 3 | successive relearning(別日に繰り返し正解するまで) | 実コースで1レターグレード超の向上(Rawson 2013)。自己判断で落とすと効果消失→判定はシステム側 | マスター判定=別日に3回正解。バッジ表示・復習キューからは外さない |
| 4 | マルチメディア原則(言葉+対応する図) | 全体 g≈0.37〜0.39(Cromley 2025 / Guo 2020)。効果条件: 内容対応・初学者向けほど大 | 中核メンタルモデル22点をインラインSVG図解化(tool useループ・RAG・MCP・信頼境界など) |
| 5 | 空間的近接+シグナリング(ラベルは部位に直接・強調は絞る) | contiguity g=0.63〜d=1.12、signaling d≈0.52(言語ラベル併用時) | 図解仕様: ラベル直接埋め込み・本文と同一語彙・アクセント1〜2箇所・凡例禁止 |
| 6 | 一貫性原則/誘惑的詳細の排除 | 無関係要素の除去で d=0.82〜1.66。誘惑的詳細は g=−0.33 の害 | 図解に装飾・マスコット・余談を入れない(仕様で禁止)。本文でも無関係トリビアは折りたたみ外へ |
| 7 | 事前テスト(習う前に予想させる) | prequestion は読み方を変える(Pan & Sana 2021)。即時フィードバックで d≈1.24(別の単一研究、Journal of Cognition 2025) | サイトの各レベルページ冒頭にウォームアップ予想テスト(ペナルティなし・当該レベルのクイズから自動選出) |
| 8 | 描画効果/図の再現(見るだけでなく描かせる) | 描画は書き写しの約2倍の再生(Wammes 2016)。支援付きが最良 | P0図解の直後に「✏️ 再現チェック」(白紙に描き直す)プロンプト |
| 9 | メタ認知の較正(自信と成績のズレを見せる) | 再読・ブロック学習への選好は錯覚(Kornell & Bjork 2008: 78%が誤帰属) | ドリルに確信度(自信あり/なし)を記録し、「自信あり×不正解」を優先復習に回す |
| 10 | 足場外し(worked example→穴埋め→自力) | worked example 効果+適応的フェードの優位(Renkl/Salden)。熟達逆転に注意 | 演習の5段階型(手順付き→要件のみ→障害シナリオのみ)が既に段階的に足場を外す設計 |
明示的に避ける俗説
- 学習スタイル適合(視覚型学習者…)は神話(Pashler 2008が支持する妥当な証拠なしと結論。直接検証 d=0.04 は Pashler 2008 自体の値ではなく、Visible Learning データベースの4メタ分析・143研究を統合した後続研究 2025 による)。図解が効く根拠は「全員共通の二重チャネル+容量制限」(二重符号化・CTML)であり、「視覚学習者向け」という表現は使わない。
- 再読・ハイライトは低有用性(Dunlosky 2013)。「読了」を進捗の主指標にしない — サイトの進捗はクイズ通過・ゲート合格ベース。
- 拡張間隔 vs 均等間隔の差はない(g=0.032, n.s.)。スケジュール形状の精密調整に工数をかけない(FSRSデフォルトで運用)。
- 「困難なら何でも良い」ではない(Chen 2018: 複雑教材で生成効果が逆転)。初学者向けモジュールには worked example と手順を残す。
- 装飾で「楽しく」しない(seductive details g=−0.33)。感情は内容そのもの(失敗談・動いた瞬間)に乗せる。
サイト機能とエビデンスの対応
| サイト機能 | 対応する原則 |
|---|---|
| クイズカード(答えを見る→自己申告) | 検索練習(flashcard手続きは successive relearning 原研究と同型) |
| 今日の復習(FSRS-6・due順) | 分散学習・間隔反復 |
| 習得バッジ(別日3回正解) | successive relearning(判定はシステム側) |
| ウォームアップ予想テスト | 事前テスト効果(ペナルティなし・後で同一概念を再出題) |
| 確信度つき回答と較正表示 | メタ認知の較正(foresight bias 対策) |
| 横断ドリル(レベル混合ランダム) | インターリービング(概念の弁別。語彙暗記ではないので適用可) |
| インラインSVG図解+再現チェック | マルチメディア原則・二重符号化・描画効果 |
| 進捗=クイズ/ゲートベース | 流暢性の錯覚対策(読了を成果にしない) |
| エクスポート/インポート | (運用上の要請: localStorage は消えうる) |
図解の設計規約(要約)
詳細チェックリストは pedagogy/research-visual-multimedia.md §9。Do: 内容対応する箇所にだけ置く/ラベルは部位に直接・本文と同一語彙/強調1〜2箇所/複雑なら分割/①②③で本文と対応付け/図の前に期待文。Don't: 装飾・余談/文章の再掲/凡例分離/全要素彩色/巨大図1枚/自動アニメ。
技術面: SVG は style="...var(--X, フォールバック)" でサイトのテーマ変数に追従(curriculum/diagrams/*.svg、mdからは キャプション で参照、build.py がインライン展開)。
執筆規約(本文を書く・直すときに適用)
- 具体→抽象の順(concreteness fading): 新概念は実務の生例→簡略形→一般形。表面の異なる複数例のあとに共通構造を命名する。
- 二人称+因果連鎖: 「あなたのアプリで〜が起きたら」。羅列でなく「だから→しかし→その結果」で接続(物語構造のメタ分析: 説明文より記憶に残る)。
- 自己説明プロンプト: 手順の要所に「なぜこのステップが必要か」を問う(g=0.55)。
- フィードバックは理由つき: クイズ解答には正誤だけでなく「なぜ」を書く(説明フィードバックは転移を改善)。
- 難しさの予告: 混合ドリルや敵対テストが「難しく感じるのは仕様(望ましい困難)」と教材側で明示し、離脱を防ぐ。
将来の拡張候補(今回未実装・エビデンスあり)
- Parsons 問題(行並べ替え演習、CS教育で実証 ★★★)— js-parsons 型のD&D。演習の②と③の間の足場として
- PRIMM/コードトレース先行(Predict→Run→Investigate→Modify→Make)— コード例に「出力を予想してから実行」ボタン
- notional machine の明示(実行モデルの心的モデル)— L1 に「APIリクエストはこう処理される」の一貫した視覚語彙
- 較正ダッシュボード(自信×正答のヒートマップ・予測vs実績の推移)
運用メモ
- 効果量は主に大学生・教室研究由来。本カリキュラム(成人・自習・技術領域)への外挿には幅がある — 「方向は信頼、数値は目安」で扱う。
- 表層的・事実的学習への効果(d=0.60)に比べ、深い学習への効果は小さく(d=0.26)、同様に近転移(d=0.61)に比べ遠転移への効果も小さい(d=0.39)(Donoghue & Hattie 2021)。クイズだけで済ませず、キャップストーン(実装+設計判断メモ)が転移の主戦場という役割分担は維持する。
- 本ファイルの主張には確認日(2026-07-12)付きの一次出典が付録レポートにある。仕様変更・新研究があれば付録から更新する。